地星社では、子どもに関する問題を被災地における大きな課題の一つとして捉えており、継続的に調べています。今回、宮城県内市町村の不登校に関するデータ(小・中学校)を集めて調べました。そこでの大きな問いは、「震災は不登校出現率の増加に影響しているか?」ということです。データを調べた中で見えてきたことをいくつかご紹介します。
詳細なデータはエクセルファイルにまとめたので、以下のファイルをダウンロードしてご覧ください。
背景
2012年度の中学校における不登校出現率について宮城県が全国ワーストになり、そのときにこれは東日本大震災の影響があるのではないかとの報道もありました(例:「不登校の中学校、宮城県が全国最多 震災が影響か」 朝日新聞 2013年8月7日 など)。そこで昨年度、地星社では不登校について市町村ごとのデータを宮城県に情報公開請求し、データを調べました(「震災の影響で不登校が増えた」は本当か?)。
今年8月、2013年度の学校基本調査の速報値が発表され、宮城県は中学校における不登校出現率について2年連続でワーストとなりました(参考:中学不登校 宮城県2年連続ワースト | 河北新報オンラインニュース)。一方、小学校の不登校出現率は全国16位です。
そこで地星社では今年度も宮城県に対し情報公開請求を行い、市町村ごとの不登校のデータを集めました。情報公開請求を行った内容は次の通りです。
- 平成16〜25年度間 市町村別不登校者数、不登校出現率(小学校)
- 平成16〜25年度間 市町村別不登校者数、不登校出現率(中学校)
※ただし、平成16年度については多くの市町村合併が行われた時期だったため、データの分析からは除いた。
平成25年度不登校出現率一覧表(小学校)
震災の影響があるとすれば、沿岸自治体の方が不登校出現率は高くなることが考えられます。自治体ごとの不登校出現率を一覧にしました。
ワーストは塩竈市で、川崎町、村田町と続いています。ただし、不登校児童の総数が少ない自治体では、1人違っただけでも出現率が大きく変わってしまうため、そうしたことも勘案した上で見ていただければと思います。
川崎町、村田町、柴田町など沿岸被災地以外自治体も上位に入っていることがわかります。ちなみに宮城県全体での小学校の不登校児童数は490人、不登校出現率は0.40パーセントです。
平成25年度不登校出現率一覧表(中学校)
続いて中学校です。
こちらも小学校と同じく、塩竈市がワーストになっています。全般的に、中学校になると小学校よりも不登校出現率がずっと高くなることがわかります。沿岸自治体が上位に入っているケースは、小学校に比べて多くなっているようです(小学校:ワースト10のうち5 → 中学校:ワースト10のうち7)。
宮城県全体での中学校の不登校生徒数は2,070人、不登校出現率は3.17パーセントです。
不登校出現率の推移(小学校)
沿岸部自治体の不登校出現率の推移を見てみます。震災の影響がある場合、震災後に不登校出現率が高くなっていることが考えられます。まずは小学校からです。沿岸北部、中部、南部にわけてグラフを作りました。
北部
南三陸町で震災後、急激に不登校出現率が高くなっています。ただし、総数が少ないことに留意しておく必要があります(2012年度655名中1名、2013年度646名中5名)。石巻市は2011年度に増えましたが、その後は微減傾向です。
中部
塩竈市で震災後に大幅に増えています。多賀城市では、2011年度、2012年度と微減でしたが、2013年度になって増えています。
南部
亘理町で2012年度、2013年度に増加しています。
不登校出現率の推移(中学校)
続いて中学校での不登校出現率の推移です。
北部
女川町で震災後に急激に増加し、2012年度はワーストでした。ただし、2013年度においてはデータが非開示のため不登校出現率がどのように推移したのかはわかりません。石巻市は震災前から高かく、2009年度から横ばい傾向です。
中部
塩竈市は、震災前から高い水準でしたが、2012年度に6.80パーセントとかなり高くなりました。2013年度に5.54パーセントに下がりましたが、県内ではワーストです。多賀城市と宮城野区は震災前から高い水準で、横ばい傾向です。七ヶ浜町は震災前は低かったのですが、震災後は増加傾向にあります。
南部
亘理町では2011年度に増えましたが、その後は減少傾向にあります。
沿岸部と内陸部の割合の推移(小学校)
宮城県全体の不登校のうち、沿岸部と内陸部の割合がどのように推移しているかをグラフにしました。震災の影響で不登校が増えているということであれば、全体に占める沿岸部の割合が大きくなることが考えられます。非開示だった自治体は不明分にしてあります。まずは小学校についてです。
沿岸部の占める割合は2011年度に43.2パーセントになりましたが、その後は47パーセント程度になっています。2007〜2009年度も47パーセント程度であったことを考えると、震災後の影響があったかどうかはこのデータからははっきりとは言えなさそうです。
沿岸部と内陸部の割合の推移(中学校)
続いて中学校についてです。
沿岸部の占める割合は2009年度の47.6パーセントをピークに減少傾向にあり、震災後はむしろ内陸部の方が割合を増やしているということがわかりました。個別の市区町村を見ると、太白区と泉区で震災後に割合が増えています(エクセルファイル参照)。
小学校と中学校の不登校出現率の相関係数の推移
宮城県における不登校の特徴の一つが、小学校と中学校でのギャップです。2013年度(速報値)では、中学校はワースト1位でしたが、小学校は16位でした。宮城県においては、小学校と中学校とで不登校出現率の相関はあまりないのでしょうか。
そこで、各市町村の不登校出現率について、小学校と中学校の相関係数を出し、その推移をグラフにしました。
2009年度以前は相関係数が0.4を下回っていましたが、2010年度以降相関係数が高くなっています。
市区町村ごとの不登校出現率の相関係数
2005年度から2013年度までの不登校出現率について、小学校と中学校の相関係数を市区町村ごとに出してみました。詳細はエクセルファイルをご覧ください。
相関係数の高い市区町村はそれほど多くなく、相関係数が0.6を上回ったところは次の5つでした。
青葉区 0.66
石巻市 0.66
塩竈市 0.73
気仙沼市 0.86
栗原市 0.61
相関係数の高かった自治体(特に不登校出現率が高かったところ)については、不登校に影響する地域特性があるのかもしれません。
最後に
震災の影響で宮城県の中学校の不登校出現率が全国ワーストになったのかというと、それを裏付けるデータは今のところ乏しいというのが今回の結論です。むしろ、宮城県全体で見ると、中学校については不登校全体に占める沿岸地域の割合は逆に減少していることがわかりました。
ただし、個別の自治体で見ると、震災により何らかの影響を受けているのではないかというケースもありました。小学校では南三陸町、塩竈市、亘理町、中学校では女川町、塩竈市、七ヶ浜町です。また、被災地域から内陸部に転入して不登校になっているケースも考えられ、それは今回のデータから知ることはできません。不登校が増えている太白区や泉区でそうしたケースがもしかしたらあるかもしれません。
それから、震災の影響で不登校が増えたと直接的に結びつけるのではなく、「震災の影響で◯◯◯が増え(進み)、そのため不登校が増えた」の◯◯◯に当てはまるものを探っていくことが重要です。震災が直接的に不登校の原因になるわけではありませんし、子どもが不登校に至る理由もケースによりさまざまです。また、沿岸部以外で不登校出現率の高い地域があることにも目を向ける必要があります。
また、不登校の原因だけでなく、この問題についてどのような取り組みがなされていたか(あるいはなされていなかったか)も重要なポイントであると思います。
今回は学校基本調査のデータを調べるという方法を取りましたが、今回調べられなかった点や新たに生じた疑問については、引き続きさまざまな方法で調べていきます。