―傾聴では相手に寄り添うことが大切だと思いますが、活動の中で印象深かったことを教えてください。

震災前の話ですが、夜に電話を受けて話を1時間ぐらい聞いたことがありました。深刻な状況だと思ったので、次の日に心配してメールをしたら、ゆっくり話を聞いてくれたので眠れましたといわれました。その後、音沙汰はなかったのですが、10年近くたってから連絡があり、お会いすることができました。あのとき話を聞いてくれる人がいるんだったら生きようと思ったと、それから、何年もかかってリハビリをして歩けるようになって、やってきてくれた。電話で話せて本当に助かったと言われたとき、傾聴とはこれだと思いました。そのように言ってくださることがうれしかったです。一本の電話でもそのようなことがあるし、傾聴することが大事だと強く思いました。

傾聴を学ぼうとする若い人も増えてきた

―まもなく震災10年になりますが、これまでを振り返ると被災者の状況はどう変化したでしょうか?

仮設住宅の時は目先のことで一杯でしたが、復興住宅に移ると落ち着いて先のことを考えるようになってきました。その時一人で自分のことを考えていくことは難しいです。石巻の仮設住宅集会所で自殺がありましたね。接触がないと一人で考え込んで落ち込んでしまうようになる。閉鎖的な復興住宅の構造は仕方ないけど、みんなで何かをする状況をいろいろつくっていかなければならないのです。

2年前に被災者を対象としたアンケートを取りました。それによるとお茶会を続けてほしい方が80パーセントであり、近隣とのつながりを大事にしたいというのが見えてきました。10年で終わりではなく、続けていく必要性を感じています。集うということ、関わること、何気ない話でも吐き出していくということが求められているのではないでしょうか。ある被災者の方からの2019年の年賀状で、仮設住宅からやっと復興住宅に移ることができた、避難所から支えてくれてありがとう、これからは心機一転前向きに生きたいということが書いてありました。「前向きに生きたい」と言ってくれることがうれしかったです。


震災から10年となるのを機に、聞き書きの記念誌を発行した

―活動に携わる会員の方はこの10年でどう変わりましたか?

会員の人数はこの10年で、200人ぐらいになっています。震災時100名ぐらいでしたがさらに増えています。最近の養成講座には若い人も増えています。なぜかというと傾聴を学んで人との関係づくりに活用したいということがあります。お仕事で必要だと感じる人も増えていて、さらに上司の方も部下とのジェネレーションギャップで傾聴を勉強したいと思っている人もいるようです。修了証を就職のために使えるというのもあるらしいです。また、被災者でボランティアとしてやってくれる人も増えていてうれしいです。これまで10年活動してきた成果かなと思います。

みなさん、講座を受けるとだいたい会員になってくれます。ただ、実際の活動に参加するのはその半分ぐらいです。でも仕事をしながらでもボランティアということを考える人が増えているし、県外からも月に1回ぐらいボランティアとして来ますと言ってくれる人もいる。やはり、仕事の人間関係だけではない、ボランティア活動の繋がりを求める方も増えていると思います。

―森山さんご自身も、震災後の10年間の活動を通して変わっていったところはありますか?

随分変わりましたね。気づきが出てきました。自分の私生活での言葉に反省をしたり、自分の人生の中では経験できないことを聴くことで、心の幅が広がりました。自分に対する問いかけができるようになったのです。自分とは違う別な考え方を入れたらどうかと考えられるようになりました。傾聴は、悩みを持つ人の支えになるということもありますが、自分自身の悩みを解消できる、自分のためにやることだと講座受講者には伝えています。

また、長いこと傾聴をやっていると少しずつ身についてくるということを実感します。うちのボランティアをやっていた男性が、自分の妻からいろいろと言われることが少なくなったとコメントしています。長い年月をかけて自分が変わっていくなということが見えます。家族関係もよくなります。

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