―広瀬さんが感じる被災地の10年の変化について聞かせてください。

農業の側面の変化であれば、小規模自営農家から大規模法人に大きな転換があったことと、比較的若い人ががんばるようになってきていることですね。震災当時がんばっていた世代は60代後半なので、その世代よりももう少し下の息子世代が今はがんばっています。それで地域の農業が全て守れるわけではありませんが、世代交代の動きは生まれてきています。若手の新規就農者もこの地域で7、8人います。ReRoots出身者がそのうち2名。若手が参入しやすい環境にはなっています。とは言え、それでもまだまだ担い手不足の悩みは深刻です。

それから、表現はよくないかもしれませんが、住民はコミュニティづくりに疲れてきたように感じます。最初の数年は、地域の行事やイベントもコミュニティを再生しようと、がんばってきましたが、次世代に引き継ぐことも難しく、新しい展開もないわけです。今後の地域の展望を考えると、地域にとって本当に必要なものは何なのかを考え、住民たちが背伸びせずに主体となり、生活の中にある安心、つまり地域福祉のしくみをつくっていかなければならないと思います。というのも、荒浜小と東六郷小2つとも閉校してしまい、子どもがいなくなり親世代もいないので、高齢化が一気に進んでいます。高齢化に対する取り組みは行事再生だけでなく、生活における安心は大切だと思っています。同時に、高齢者しかいないとなれば、人口流出に対して若者の移住は喫緊の課題ですね。

昔は互助共助があったんですよね。でも仮設住宅でお互いに干渉しないことに慣れてしまったこともあり、農村文化から都市文化になっていきました。震災から10年で、もともとあった地域課題や社会課題が速度を上げて顕在化した気がします。地域の人たちが本気になって核心に向かわなければいけない時期になってきていると思います。

コミュニティと農業が結合した農村の営みを回復させたい

―そのような課題も踏まえて、今後の展開をどう考えていますか?

ReRootsの卒業生の農家と、地域の若手農家と「農村塾」をやりたいと考えています。農業の新規就農者・後継者育成です。担い手のいない法人に研修として取り入れてもらい、そこで学びながら法人としてそのまま継続雇用をして後継者になっていくような仕組みをつくりたいです。若林区沿岸部の主要な農業法人は14法人ありますが、その約半数に若手がいないのです。平均年齢は67歳ですから、あと10年で担い手育成できるかが勝負です。

ちなみに、農業塾ではなく、なぜ農村塾なのか。農家になるためには農業技術や土地、販路は必須ですが、それだけでは継続しません。地域や農家の文化・習慣、歴史・風土・特質なども学ばなければ、集落に溶け込めません。農業は地域に根付くので、根付けるための支援と環境整備が必要です。すでにReRootsとそのOB農家がいるので、農村塾で気軽に話せる関係性と地域のつながりができるといいと思っています。地域コミュニティのしきたりなんて誰も教えてくれませんからね。

若林区沿岸部の六郷東部地域の人口は60歳以上が過半数です。20年経ったら人口不足になり、コミュニティの自活能力が低下することが見えています。移住も増やさなければ地域は続きません。そこで、どうしても5年、10年たてば必然的に空き家が生まれます。震災後、新築しても、そのあとが続きません。そこで、農村塾で新規就農を希望する若者がいたとき、若手が集落の空き家に入って農家が持続し、コミュニティの構成員にもなります。コミュニティの行事にも携わるようになります。農業とコミュニティが結合した農村の営みとしての移住を進めたいです。農業を土台として、その上に共同文化や共同農業、それを通じて食文化が成り立ち、収穫したら祭りがあってコミュニティがなりたつ。まさしく目指しているのは「ひなびた持続する農村」です。これからの10年はそんな風に農業とコミュニティが循環していく地域をつくっていきたいですね。

―農業の六次産業化として長町にスイートポテトのお店「りるぽて」をオープンさせましたが、これはもともと考えていたことでしたか?

お店はいつかやろうと考えていました。ほかに、農業を通じて農業生産販売を事業化し、CSAのしくみをつくりたいとは思っていました。野菜販売だけではなく、2018年、お芋プロジェクトでとれたさつまいもを、パンやケーキなどのコラボ商品に協力してもらえるお店を探していました。そのとき、六丁の目にあった「仙台いも工房」さんから事業継承の提案があり、願ってもないことだったので、お店を構えることになりました。2020年の6月にオープンし、最初の1か月間は行列が続いて、作っても作っても午前中で売り切れ、長くても午後3時にはおしまいということで大変でした。今は、生産体制も整頓し、やっと10時から19時まで営業できるようになりました。評判もよくとても助かっています。

―これまでの活動の経験を通して、のちの人たちに伝えたい教訓はありますか?

必ず相手の目線に立つこと、長期的な戦略を立て、チームを作ること。

困っている人や地域の人を大事にし、そこから学ぶことは基本です。当事者をないがしろにした活動は絶対にだめで、住民との心のキャッチボールが大事になります。そして課題を解決するための戦略をしっかり出すことです。目の前の課題が解決したら、次はどうなるのか、その先はどうなって、ゴールはどこにあるのかを明確にしないと続きません。

そして、一人で解決することは難しいですから、チームを作る。チームをマネジメントするのに必要なことは、現実の問題をきちんと組み立てて解決する論理をしっかりと立てる力、問題を理論化することは絶対です。そして成功におごらず、失敗にめげず、自分の欠点も含めてどんな現実も謙虚にうけとめる人柄は欠いてはなりません。結局、問題を解決できないチーム、人を育てられないチームは必要ありません。農家や住民の悩みを解決し、ボランティアの学生も成長していく組織でないとどんなに崇高な目標があっても実現できません。農家・住民と学生、先輩と後輩、リーダーとメンバー、どんなときも双方向性を大事にしているのがReRootsですから。

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